――澄み渡る青い空の下で、
――私達が想い描いた未来は、
――永遠に紡がれてゆく
魔法少女リリカルなのは Eternal-Memory Final 永劫の想い
「――んっ〜んん〜〜」
鼻歌を歌いながら、ざわつく周りの様子を眺める。
いつもとは違う様子、場所、雰囲気、その全てがヴィヴィオにとって新鮮だった。
「ん〜〜んんっ〜」
椅子に座りながら、足をなんとなくブラブラと揺らす。
自分の服もいつもと違って、フリルのたくさんついた白いワンピース。ちょっとしたドレスみたいなものだ。
これから何が始まるのか、ヴィヴィオはとても楽しみだった。
「――おーい、ヴィヴィオー」
「――あっ、フェイトママ〜」
ヴィヴィオの名前を呼びながら、フェイトがヴィヴィオのもとに駆け寄って来る。
彼女の服装も、黒色のタイトなドレス。
スラリとした彼女に似合う、綺麗な服だった。
「なのはママのお着替え、もう終わったの？」
「うん、そうだよ。ヴィヴィオも見に行こうか」
「うん！」
目をキラキラさせて答えるヴィヴィオの手を取り、フェイトはなのはがいる部屋の前まで移動する。
この扉の先になのはがいる。
そんなことを思い、フェイトは今日という日を迎えられたことを神に感謝した。
「きっと、なのはを見たら、ヴィヴィオは驚くよ――」
そう言いながら、扉に手をかけ、ゆっくり扉を押してゆく。
扉が開いた先に――
「――なのはママ、きれい…………」
真っ白な――
「――ありがとう、ヴィヴィオ」
ウェディングドレスを身に纏った、なのはが微笑んでいた。
「うー、緊張するなぁ……」
「見苦しいぞ、ユーノ。もうここまで来たんだ、さっさと覚悟を決めろ」
先ほどから部屋の中をソワソワと歩き回るユーノを見て、クロノが呆れた声で言い放った。
ユーノだって言われなくてもそんなことは分かっている、しかしやはり足は止まらないのだ。
「――しょうがないだろっ、こんな風になるなんて一年前には考えてもいなかったんだから」
一年前。
ユーノは無限書庫で、なのはは機動六課に。
結婚どころか、付き合うことですら思いもしなかった。
「それはただの言い訳だぞ……」
「――だけどっ……」
なおグチグチと続けるユーノ。
そんなユーノの背中を、クロノは思いっきり叩く。
「――いたっ」
「――何度も同じことを言わせるな」
叩かれたところをさすりながら、クロノを軽く睨む。
そしてボソリと呟いた。
「――クロノだって……」
「ん？ なんだ、聞こえないぞ？」
クロノの問いかけに構わず、ユーノは言葉を続ける。
「エイミィさんとの結婚式のとき、似たような感じだったじゃないか」
「――なんだと」
言い終えたとたん、ユーノの頬が思いっきり引き伸ばされた。
「そんなくだらないことを言うのは、この口か！？」
「いたたっ……だって事実じゃないかっ」
ユーノも負けじとクロノの頬を引っ張る。
そんな不毛なやり取りを永遠としていると、不意に扉が開いた。
「おーい、こっちは準備できたぞ……って、何をやってるんだい、あんたたちは」
扉から入ってきたのは、ドレスを纏ったアルフだった。
そして、互いに頬を引っ張り合う二人を見て、ハ〜とひとつため息をつく。
「こんな時まであんたらは……昔とちっとも変わってないじゃないか」
アルフがそんなことを呟くと、二人はピクリと反応した。
「む……」
「ぬ……」
二人の様子にもう一度アルフはため息をつく。
ああ、なんて似たもの同士なんだろうと。
「しかめっ面してないで、ほらっ、さっさと行った」
「行くって……」
「なのはんところに決まってんだろっ、早くしな」
慌てて体裁を整えて、ユーノはすこし先を歩くアルフについていく。
「それにしても……ユーノが結婚かぁ」
「――ん？」
そう言って、アルフは振り返り、ボーとユーノを見つめてきた。
「一年前からじゃまったく想像できなかったよ」
「そう思っているのは、僕も同じさ……」
今だって夢みたいだ、とユーノは続ける。
いつからか、いつかはと夢想していたことだけれど、それでも現実味をもてない。
「――それに、僕はもう長くはない……本当に、なのはには……」
「結婚式の前だっていうのに、まだそんなことを言ってんのかい！？」
“ごめん”や“申し訳ない”といった言葉が来ると思ったアルフはユーノをきつく睨みつける。
しかし、きつく睨んでくるアルフに対して、ユーノは違うよと続ける。
「もう、体のことは受け入れると決めたんだ……だから、なのはには“ごめん”じゃなくて“ありがとう”だ」
「――そうかい」
“ごめん”ではなく“ありがとう”。
この気持ちは、これからも絶対に忘れない。
「なら、さっさと行くよ」
アルフは心の中で、もう大丈夫だとホッと一息をついた。
「この扉の先になのはがいるよ」
「う、うん……」
白い扉を目の前にしてユーノの足が止まる。
手のひらからは汗が滲んでいるし、足はすこし震えていた。
この先になのはがいると思うと、頭が真っ白になるような気がした。
「なんだい、緊張してんのか、ユーノ」
「――まあ、ね……」
だけど、いつまでも扉の前で立ち止まっているわけにはいかない。
すこし勇気を持って、扉に手をかけ、ゆっくりと扉を押した。
そして目の前に――
――白いウェディングドレス姿のなのはがいた。
「あ……ユーノ君……」
「なのは……」
二人は顔を合わせると、真っ赤になってうつむく。
そして、しばらくの間、黙ったまま見つめ合う。
「なのはママどうしたの？」
なのはのドレスの端をヴィヴィオが引っ張って、黙ったままの二人を不思議そうに見つめる。
ヴィヴィオにいわれてなのはとユーノはハッとする。
「な、なんでもないよ、ヴィヴィオ」
「ふーん」
そんなやり取りをなのはがしているとき、アルフがユーノを肘でつつく。
「おい、ユーノ。なんか言うことがあるだろ？」
「あっ、うん……」
アルフに押されて、ユーノはなのはの目の前まで移動する。
そして、愛しいなのはへと告げる。
「――その……綺麗だよ、なのは」
「――ありがとう、ユーノ君……」
そして、見つめ合って、顔を赤らめて、お互いの唇を近づけて――
「――二人とも、そこまでだよ」
そう言ってフェイトは、なのはとユーノの唇の間に割り込んだ。
「フェ、フェイトちゃんっ！」
真っ赤になって驚くなのはに、フェイトは呆れたため息をつく。
アルフも周りで準備をしていた人たちも同じような表情だ。
ひとり、ヴィヴィオだけが不思議そうな顔でたたずんでいる。
「まだ、式が始まる前なんだから……続きはあとで、ね？」
「そうだぞー、二人とも」
フェイトとアルフに言われて、なのはとユーノはさらに顔を真っ赤にした。
「あー、なのはさんが結婚かぁ……」
「なによ、スバル。呆けちゃって」
青色の衣装を身にまとったスバルが、ティアナに嘆く。
「だって、結婚だよ？」
「そんなこと、普通のことでしょ？ なのはさんだって女性なんだから」
「そうなんだけどさ〜」
う〜とうなだれるスバルの頭を、ティアナがパンッと叩く。
そして、ハーとため息をつく。
「ほら、シャキッとしなさい、もうすぐ式が始まるわよ」
「――うん」
会話を区切って、ティアナは周りをキョロキョロと見渡す。
知っている人がちらほらと見える。どちらかというと、知らない人のほうが多い。
そして、奥の扉から見知った人物が現れた。
「あっ、八神隊長にヴィータ副隊長」
「お〜、ティアナにスバルやないか。――久しぶりや」
大きく手を振って声をかけるはやてに、スバルとティアナの二人はお辞儀をしてかえす。
「こちらこそ、お久しぶりです」
「ヴィータ副隊長も、お元気でしたか？」
久しぶりの再開ということもあって、４人は話に花を咲かす。
今までのことやこれからのこと。そして、今から始まること。
「つーか、なのはが結婚かぁ」
「そやなー結婚やなぁ」
ヴィータが感慨深げに呟き、はやてもそれに同意をする。
二人の仲をずっと見てきたはやてにとって、この結婚式は喜ばしいことだ。
しかし、それはそれとして――
「私も結婚式挙げたいなぁ……って、相手がおらへんか……」
自分で言っておいて、ガクッとうなだれてしまう。
一番身近な親友の結婚というものは、それなりに危機感を与えてしまうのだ。
そろそろ彼氏の一人でも作らなきゃあかんかなぁ、とはやては心の中で呟く。
「そういえば八神部隊長、なのはさんの相手……ユーノさんってどんな方ですか？」
「そういえば、ティアナもスバルもあんま面識がなかったなぁ」
んーと人差し指をあごに付けて、ちょっと悩んだ後に口を開いた。
「名前はユーノ・スクライア。地位は元無限書庫司書長……ここまでが一般的に知られていることやな」
「む、無限書庫の元司書長……」
軽くティアナが目を見開いて驚いた。
高い地位もさることながら、無限書庫勤務というのが驚いた原因だろう。
無限書庫といえば、管理局の中でもトップを争うほどの忙しい職場なのだ。
「非公式には、ユーノ君はなのはちゃんの魔法の先生や……あと、無限書庫の実用を可能にしたのもユーノ君やな」
「それに、リインが生まれるとき、いろいろ手伝ってくれたのもユーノさんですよー」
いつの間にか、リインフォースがはやての肩までやってきて言葉を付け足した。
「なんか、ものすごい人ね……ユーノさんって……」
「なのはさんの魔法の先生って本当ですか！？」
素直に驚き呆れるティアナに対して、スバルはものすごく興味津々と言った様子だった。
なのはの先生というのがポイントだったのだろう。
「本当や、私も詳しくないんやけど、なのはちゃんに魔法を教えたきっかけになったのがユーノ君。
つまり、なのはちゃんとユーノ君は十年来の幼馴染。そんな二人がやっとゴールインしたちゅうことや」
それでな――と言葉を続けようとしたが、それは会場に響き渡ったアナウンスで途切れた。
『――今から結婚披露宴を行いたいと思いますので、ご来場の皆様、お席にお座りください――』
そして、結婚式が始まり――
――二人は永遠を誓い合った。
結婚式は素晴らしいものだった。
誰もが微笑んでいて、誰もが幸せそうな顔をしていた。
白いウェディングドレスのなのはは、微笑みながら涙を流していた。
ユーノは、そんななのはを強く抱きしめ、誓いの口付けを交わした。
二人の顔は誰が見ても幸せそのもの。
誰にも否定することのできない、確かな愛のカタチ。
十年来の幼馴染の終着点。
長かった恋は終わり、それは愛となった。
そして、新たな出発点。
永遠の想い出を刻んでゆくための始まり。
先が無い未来。それでも一緒にいたいと願ったから。
君が居ない未来。それだけは嫌だと思ったから。
――だから、ここにいる。
澄み渡る青い空の下。
穏やかな風が、二人の間を駆け抜ける。
「――気持ちいい風だね」
「――そうだね」
寄り添うように、抱き合うように、二人は空を見上げていた。
目に映るものは、青い空と白い雲。
「ユーノ君は今、幸せ？」
「当たり前さ、なのはは？」
「幸せだよ」
二人が想い描いた未来。
それが、たしかにここにある。
二人は一緒で、幸せな顔をしている。
――それは何事にも変えられない大切なこと。
「――なのは、ひとつだけ約束をしよう」
「――なに？」
この場所で。春には菜の花で覆われるこの場所で二人は誓う。
「なのはは幸せになって、誰よりも幸せに」
「それは、ユーノ君もおんなじだよ」
二人は顔を見合わせて、クスクスと笑う。
二人の願い。
それは純粋で、不変で、永遠に守られる確かなもの。
「――キスをしよう、なのは」
「――うん」
そして、唇を深く重なり合わせる。
きっとこの瞬間が、忘れられない、永遠の想い出に変わってゆく。
こうやって二人は、永遠ではない永遠を紡いでゆく。
そう、二人はこうやって生きていく。
笑って、泣いて、怒って、そしてキスをして。
大切な、大切な、日々の記憶を永遠に変えて。
――それは、二人のEternal-Memory――
―完―
あとがき
これにて、Ｅｔｅｒｎａｌ−Ｍｅｍｏｒｙは終わります。長い間、応援ありがとうございました。
よろしければ、掲示板やＷＥＢ拍手などで感想をください。
最終話でしたが、後日談的なものもあるので、そちらも見てやってください。
前のページに戻る ＳＳのページに戻る