「――風が気持ちいいね、ユーノ君」
「――そうだね、なのは」
月が輝く夜空に二人は浮かんでいた。
「こうやって、ユーノ君と会うのも久しぶりかな？」
「ごめん……なかなか会う時間が取れなくて」
ユーノは、優しくなのはを抱き寄せる。
なのはもまた、自然にユーノの胸の中に飛び込んで微笑んだ。
なのはとユーノが会う時間はとても限られている。
一方は、管理局のエースオブエース。もう一方は、無限書庫司書長。
お互いに今は多忙の身なのだ。休暇が取れても、相手は仕事をしていることの方が多い。
だから二人がデートをすることは稀なのだ。
「にゃはは、ユーノ君……それは仕方が無いことだよ。だからそんなこと言わないで」
「だけど……なのはに寂しい想いをさせてる……」
胸の中で、ゆっくりとなのはは目を閉じた。
そして、ユーノの胸の鼓動にゆっくりと耳を傾ける。
「確かに寂しいけど……そのぶん、こうして会えた時に甘えさせてもらうから大丈夫だよ」
「なのは……」
ユーノの抱きしめる力が少し強くなった。
二人は寄り添い、抱き合って、広大な夜の空をフラフラ漂う。
――これは二人のデート。
なかなか会えない二人が考え出した夜空のデート。
会えるのは短い間だけ。寝る前のちょっとした時間。
何処かに出かけるわけではない、何処で食事をするわけでもない。
――ただ一緒にいるだけ。寄り添いあって、抱き合って。
そんな二人の秘密のデート。
「最近の仕事はどう？ なのはは昔から無茶するから……」
「そんなことないよー！ それを言うならユーノ君の方でしょ！ この間みたく倒れたら承知しないからね」
なのははユーノの胸元で頬をぷーと膨らませて、ユーノを軽く睨んだ。
そんな、なのはの可愛らしい顔を見てユーノは微笑んだ。
「むぅ〜 なんで笑うの！ 私は怒っているんだからねっ！」
さらに顔を真っ赤にさせ、頬を膨らませるなのはを見て、ユーノはなのはにいきなりキスをした。
――それは、甘い不意打ちのキス。
「……んっ、あ…っていきなり何するの！」
「嫌だった？ なら、もうなのはにはキスはしないようにするよ」
ユーノの台詞になのはは少し戸惑った。
なのはとてユーノとのキスは嬉しいし、大歓迎なのだ。
……ただ、もうちょっと雰囲気とかタイミングを考えて欲しいし、やはり恥ずかしいものは恥ずかしいのだ。
「……えっ、と…そういう…意味じゃあ……なくてっ………」
なのはが恐る恐るユーノの顔を見上げると、ニヤニヤした顔のユーノがいた。
「…………ユーノ君のイジワル……分かってるくせに……」
「――なのはってやっぱり可愛いね」
今度はなのはからのキス。
会えない時間を埋めるような、長い長いキス。
広い星の海に、ちっぽけな二人はその姿をひとつに重なり合わせて、フラフラとおよぎ続けていく。
「……ユーノ君、大好きだよ」
「僕もだ、なのは……愛してる」
二人が囁き合うのは、愛の言葉。
これからも変わることのない、大切な気持ち。
「――なのは、今度はちゃんとしたデートしようね」
「うん……だけど無理はダメだよ」
「……なのはこそ」
二人はお互いの顔を見て笑いあう。
相手の身体を心配するのはいつものことだ。
もうすぐ、夜中の１２時。
それは、二人で決めた別れの約束の時間。
「――あと、ちょっとで……お別れの時間だね」
「うん……そうみたいだね…………少しだけ寂しいかな」
どちらからでもなく、二人はまたキスをする。
寂しさを紛らわすために、これからも寂しくないように、お互いの唇を貪り合う。
――傍に居たいから、離したくないから。
なのはとユーノはキスを繰り返す。
――いつまでも、ずっと。
「……それじゃ、なのは。また今度」
「……うん、また連絡するからね」
そして、なのはとユーノは互いの日常に戻ってゆく。
また会えない日々が戻ってくる。だけど二人はそれを乗り越えてゆく。
――いつかくる、幸せな日々を夢見て。
END