『――それじゃ、明日朝早いから』
『――うん、おやすみ』
うん、おやすみ。
たったそれだけの文章を携帯の画面に打ち込んで、携帯を閉じた。
彼へのメールはそれだけ。たった数文字の言葉。
最近、彼との距離が遠くに感じられる。
物理的な意味でもそうだが、精神的な……心と心の距離が感じられる。
「はぁ〜どうしよう」
私は部屋で一人、盛大なため息をつく。
彼ともっと一緒に居たい。心からそう想っているが、現実はそんなに簡単ではない。
彼も私も仕事が忙しい。それはもう本当に。
ふと、時々思うことがある。
――このまま、愛想を尽かされてしまうのではないかと。
そんなことはない、と何度も頭の中では考える。
思考は同じところをグルグルと回り、不安を募らせる。
仕事と彼。どちらも私にとっては大切なものだ。
どちらかを選ぶなんて、出来るはずがない。
「……ほんとに…どうしよう、嫌われちゃったら……」
そしてまた思考の迷宮に入り込む。
彼に嫌われたら、それこそ世界の終わりだ。
それほどまでに私、高町なのははユーノ・スクライアのことが好きなのだ。
そうして、しばらくの間いろいろなことを考えて、虚ろな目で机の上を眺めていた。
机の上には本が一冊置かれていた。
なんとなく手に取って眺めて見る。
その本のタイトルにはこう書かれていた。
『これが男の萌え〜男が好きな性格100選』
『萌え』という単語の意味はよく分からなかったが、男の好きな性格というフレーズに目を奪われた。
あまりこういった本には興味もなかったけれど、そのフレーズが気になった。
おそるおそるその表紙をめくって見る。
「ふ〜ん……こういった本もあるんだ」
なんとなく独り言を呟きながら本を読み進める。
この本を読めば、どんな女の子が男の子に好かれるか……つまりはユーノ君がどんな女の子が好きなのか分かるかもしれない。
そんなことを思いつつ、私はその本を読みふけった。
次の日の午後、訓練も一通り終わり、私は昼食を取ろうと食堂に向かって歩いている。
昨日読んだ、男の好きな性格を実践しようと心に誓った。
全てはユーノ君にもっと好きになってもらうためだ。
ちょっと実践するには勇気がいるけれど、これもユーノ君のためだと思うと大丈夫だ。
「なのは〜、一緒にお昼食べよ」
フェイトちゃんがこっちに手を振りながら私の名前を呼んでいる。
いつもの私なら、笑顔で『うんっ、一緒に食べよう』と答えるのだけれど、今の私は違うのだ。
「……かっ、勝手に食べれば」
「な、なのは！？」
フェイトちゃんが驚いた顔でこっちを見ている。
可哀想だけれど、ユーノ君にもっと好きになってもらうためだ……多少の犠牲は止む終えない。
「一人で食べればいいでしょ」
今度はフェイトちゃんが涙目でこっちを見ている。
そんなフェイトちゃんに背中を向けて、私はその場を立ち去った。
――本当にこれでいいのかな？――――ツンデレって……
確か本には『ツンツンした後にデレデレすること』って書いてあったけど……
いまいちよく分からない。
取り合えず、相手を突き放すような性格だと解釈したんだけど、違うのかな？
本当にユーノ君はこんな性格の女の子のことが好きなんだろうか？
「――なのはっ〜〜！！」
遠くからフェイトちゃんの叫び声が聞こえました。
あれから三日たちました。
いろんな人にツンデレを試して見たのですが、反応がいまいちでした。
そしてついに特訓の成果を試すときが来ました。
数分前にユーノ君からメールが届きました。
『明日休みが取れたんだ、会えるかな？』
普通なら『うん、会えるよ。楽しみにしているね』と返信するところだけれど、今の私はツンデレです。
いつも通りに返してしまったら、きっとユーノ君に愛想を尽かされてしまいます。
『ふ〜ん、別に会ってあげてもいいよ』
と、返信しておきました。
明日がこの三日間の成果を試すときです。
――本当に大丈夫かなぁ……？
――ピピピピピピ
暗い部屋に携帯の音が鳴り響く。
それを手に取り、僕は愛しい彼女……なのはからのメールを受信する。
明日は久しぶりのデート。
ここのところお互いの仕事の忙しさから全然会えていなかったから、明日のデートはものすごく楽しみだ。
パカッと携帯をあけて、受信したメールを覗き込む。
『ふーん、別に会ってあげてもいいよ』
もう一度メールを読み返す。
『ふーん、別に会ってあげてもいいよ』
変わらない、変わらない。
何度見直しても、深呼吸してみても、文面はまったく変わらない。
「……なのは、どうしちゃったんだろう……」
僕は不安に押しつぶされそうになりながらも、明日のために眠りについた。
昨日のメールのことで、かなりの不安があったけれど、僕はいつもの集合場所に向かった。
ミッドチルダの中央に位置する、噴水のある公園だ。
２０分前だというのに、遠くからなのはの姿が見えた。
その顔は非常に嬉しそうで、可愛かった。
どうやら機嫌が良いようだ。
きっと昨日のメールは何かの間違いだったんだろうと思いホッと胸を撫で下ろす。
だから、いつものように、なのはを後から抱きしめた。
「久しぶり、なのは」
「……なによ、軽々しく触らないで」
いきなり不機嫌な声で僕にそう言って、僕の腕の中からなのはは逃れた。
「……えっ、な……なのは？」
なのはの冷たいその言葉に、僕は後ろからディバインバスターで撃ち抜かれたような気分になりました。
予想外の言葉。拒否の言葉。
「そんなに、ベトベトくっつかないでっ！」
さらにスターライトブレイカー撃ち抜かれました。
どうやらなのはは僕の勘違いではなくて、本当に僕のことを嫌っているようだ。
思考をフル回転させて、でこうなった原因を考えてみる。
――やっぱり、中々会ってあげられなかったのが原因か……
それしか考えられない。
きっとなのはは僕に愛想が尽きたに違いない。
それならば、なのはのこの態度も理解できる。……僕は嫌われたということだ。
ならば、きちんとなのはから身を引こう。
確かになのはとはずっと一緒に居たいと思う。
だけど僕はそれよりもなのはの幸せを願う。
僕はなのはにとって、必要のない存在だったのだ。
悲しいけれど、こらえる……全てはなのはのために。
「……うん、言いたいことは全部分かったよ…………なのは……別れよう……」
僕は泣きたかったけれど、それをこらえ、その言葉を言い切った。
「…………えっ……」
私は耳がおかしくなったかと思った。
頭は真っ白になって、何も考えられない。
『……別れよう……』
その言葉が頭の中で繰り返される。
どうして、どうしてと何度も考える。
絶対に聞きたくなかった言葉。想像もしたくなかった言葉。
視界がぼやけてくる。涙が溢れてくる。
涙は止まることなく流れ続ける。
「……なんで……ねぇ…ユーノくん……」
頭が痛い。何も考えられない。
私はもうユーノ君無しでは生きられないのだ。
それほどまでにユーノ君を好きに……いや、愛しているのだ。
「――なんでって……なのははもう僕に愛想を尽かしたんでしょ……」
ハッとユーノ君の言葉に耳を傾ける。
「……だから、なのはは僕にあんなことを言ったんでしょ……なら、僕は潔く身を引くよ。僕の一番の願いはなのはの幸せなんだから」
やっと頭の中で点と点が繋がった。
思い当たる原因は一つしかない。やはりアレは違ったのだ。
ユーノ君に対してツンデレしたからそんなことを言われてしまったのだ。
――あまりにもな勘違いで、恥ずかしく顔が真っ赤になる。
「ゆ……ゆ、ユーノ君！ ごめん、ちがうの！ 勘違いなの、それは……私そんなつもりは全然なくて……」
ものすごく恥ずかしかったけど、ツンデレになろうとしたこと全てをユーノ君に話しました。
「――そっか、よかった。全部僕の勘違いなんだね」
「ごめんなさい……ユーノ君」
私は真っ赤になりながらユーノ君に謝った。
だけれど、ユーノ君と別れなくて済んだことを、心の底から安心する。
「ううん。なのはは悪くはないよ……寂しくさせた僕が悪いんだ……」
「……だけど……ん、あっ」
もう一度謝ろうとしたら、ユーノ君にキスをされて、後の言葉を続けることができませんでした。
頬が熱くなり、思考が蕩けてゆく。
久しぶりのユーノ君の感触で、我慢できなくなり、自分からも舌を絡めて行く。
「それにね、なのは……ツンデレとかそんなことしなくても、僕はありのままの君が好きなんだ」
「ユーノ君……」
その言葉がすごく嬉しかった。
私はもう不安になることはないだろう。
ユーノ君とは心が繋がっているのだから。
こうして、私のツンデレに関するお話は終わりです。
あれ……何か忘れてる？ まぁ、いいか。ユーノ君とも仲直りできたから。
「――そういえば、うちが買ってきた本どこいったんやろ？」
そう言って、はやては隣にいるフェイトを見る。
「……で、フェイトちゃんはどないしたんやろ？」
「――な〜の〜は〜！！」
フェイトの叫び声はこの後数日続きました……
END？
あとがき
以前WEB拍手で掲載したものです。いつものＳＳとは雰囲気が違うと思います。ただ、友人と話をしているときに思いついたＳＳなので、やはりうまくまとまっていませんｗｗ
まぁ、たまにはこんなＳＳもいいでしょう。結局は、ユーなのは甘々ですしね。
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