ユーノ×なのは同盟１周年記念SS
『家族―Family―』
「――うにゃぁ……」
穏やかで暖かな朝の光が少女の頬を照らし出している。
少女の顔立ちは、無垢な子供のようでいて、とても大人びていた。
その少女――なのははベッドの上でまどろみを謳歌していた。
「――にゅう……」
今日は休日なのだ。
休日だからこそ、やることはいろいろある。
けれど、このまま眠っていたいという気持ちも大きい。
そんななのはが、何かを求めるように隣に向かって手を伸ばす。
しかし、その手は目的ものを捕らえることなく、むなしく宙を切った。
「――むぅ……あれぇ」
薄らと目を開けて、自分の隣にいるはずの姿を確認する。
けれど、そこにあるはずの彼の姿を見つけることが出来ない。
「いない……」
目をこすって、もう一度確認する。
しかし何度見ても、隣の布団は蛻の殻。
いや、本来なら居ないはずの小さい姿がひとつ。
「――もう、また来ちゃったの？ ヴィヴィオ……」
「――うにゅう……むぅ……」
天使の笑顔で眠るヴィヴィオを見ながら、くすくすっと笑う。
そして、外れてしまっている布団をかけなおす。
何度、この愛娘が『ひとりで寝れるの〜』と宣言したことか。
いつも三日も続かず、こうして私たちのベッドに入り込んでしまう。
「――可愛いなぁ」
きっと、まだまだ甘えたいんだろうとなのはは結論付ける。
そして、なのははヴィヴィオのほっぺたに優しくキスを落とす。
それに対してヴィヴィオがくすぐったそうに身をよじる。
「――さて、そろそろ行かなきゃ」
なのはは本来ベッドにいるはずの姿を探しに寝室を後にした。
「――もうっ、またここで寝てる……」
なのはは本来隣で寝ているはずだった人物――ユーノを見つけて大きくため息をついた。
ユーノが寝ている場所はベッドではなく、ダイニングテーブル。
彼の周りには、開きかけの本が乱雑に置かれている。
仕事あるいは趣味の読書の途中に寝てしまったことは、なのはには簡単に想像できた。
「しょうがないなぁ……」
持ってきた毛布をユーノの肩に掛ける。
こういう状況も、もう何度も経験したことだ。
ユーノが私生活でだらしがない事は、この一年で十分見せつけられた。
――なのはとユーノとヴィヴィオが、本当の家族になってから一年。
いろいろなユーノの一面をなのはは見てきた。
良い所も悪い所も、好きな所もダメな所も。
その度になのはは、ユーノを好きになってしまうし、愛してしまう。
なのはは夫婦になった今でも、ずっとユーノに恋をしているのだ。
それは仕方のないことかもしれなかった。
なぜなら二人には、恋人という名の関係だった期間が全くなかったのだから。
「お仕事も大事だけど、なのはのことも大事にしてくれないと……」
なのははユーノの穏やかな寝顔を覗き込む。
そして、ユーノの頬を人差し指でツンと優しくつつく。
いつの間にかベッドを抜け出した彼に対する、ささやかな抗議だ。
「寂しくて死んじゃうよ？」
目覚めた時に、隣にユーノが居ないとものすごい不安に襲われる。
まるで、どこかに行ってしまう気がして――自分を置いて。
そんなはずは無いということは分りきっているのに。
ただ、今の家族という関係が幸せすぎて、不安に思ってしまうのだ。
「――そろそろ、朝ごはん用意しなきゃ」
嫌な気分を変えるために、ユーノのもとを離れ、キッチンへと向かう。
誰かのために朝ごはんを作る、一年前では考えられないことだった。
そんな行為ができることに、なんともいえない嬉しさを感じてしまう。
なのははフライパンを片手に料理を開始する。
すぐに部屋いっぱいに、香ばしい匂いが充満する。
「ふ〜ん、ふんふん〜」
鼻歌を口ずさみながらなのはは料理を続ける。
その動作も手慣れたもので、一年という長さを実感できる。
「――にゅう……いいにおい〜」
ドアをパタンとあけて、寝室からヴィヴィオがリビングへとやってくる。
眠たい目をこすりながらの登場だった。
「おはよう、ヴィヴィオ」
「うにゅ……おはよぅ、なのはママ」
てくてくてくとヴィヴィオがなのはの傍へと駆け寄ってくる。
そして、そのままピトッとなのはの腰にしがみついた。
「もう、どうしたの？ 怖い夢でも見たの？」
「ううん、違うよぉ……なんとなく、こうしたかっただけー」
幸せそうに自分に顔をうずめる愛娘の姿を見て、なのはは微笑んだ。
「ふふっ、もう朝ごはんができるから席についていて」
「ふあい」
可愛らしい声をあげてヴィヴィオがテーブルへと向かってゆく。
そして、テーブルで伏せて寝ている人物を発見する。
「あれぇ〜ユーノパパ、またこんなところで寝てるー」
ヴィヴィオが寝ているユーノを見つけて、頬をツンツンとつつく。
ユーノはすうーと心地よさそうに寝ている。
「なのはママ〜ユーノパパを起こす？」
「うーん、じゃあ、お願いしようかな？」
なのははそう言って料理をお皿に盛りつけていく。
少し離れた所から『ユーノパパ起きてぇ』と愛らしい声が夫の名を呼ぶのが聞こえる。
家族……という言葉がなんだか実感できる瞬間がある。
――いつでもユーノ君と触れ合うことができる瞬間。
――ヴィヴィオがパパと呼ぶ瞬間。
――私がひとりきりじゃない瞬間。
どんな時でも心に暖かさを与えてくれる。
今はそれがどんなにも大切なことなのか、それが良くわかる。
そう、あの時、家族になろうと思ったのだ。
家族になるきっかけは些細なことだったかもしれない。
人から見れば可笑しなことだったかもしれないけど、私はこのままでいいと思っていたのだ。
友達だけど、恋人ではない。
友達以上、恋人未満の関係が心地よい関係だったから。
一緒にお出かけをして、おしゃべりをして、なんとなくそばにいる関係がとてもよかった。
それ以上なんて望んでいなかった。
だから、本当にきっかけは些細なことだったのだ。
JS事件が終わって、体も心も落ち着いて。
久しぶりの休暇にユーノ君とヴィヴィオの３人でお出かけをして。
すっかり仲良くなった二人が微笑んでいる様子を見てふと想った。
――いつまでも、いつまでもこの光景を見続けたいと。
そう、見続けたいと心の底から想ったのだ。
なんとなく一緒にいるのではなく、ずっと一緒にいたいと感じたのだ。
その想いは唐突だったかもしれなかったけど、私はひどく納得したのだ。
きっと私は心の奥底では関係が変わることを望んでいたのだ。
ただその反面、関係が変わること恐れて、気づかないようにしていた。
だけど、もう恐れはすっかりと消えていた。
その日の夕暮。世界がオレンジ色の一色に染まったとき。
隣には、疲れて寝てしまったヴィヴィオを背負って歩くユーノ君の姿。
『――ねぇ、ユーノ君……お願いがあるんだけど……』
『――なんだい、なのは？』
それは自分勝手な願いなのかもしれない。
独りよがりの想いかもしれなかった。
『――もしかしたら、ね……ユーノ君にとっては迷惑かも知れないんだけど……』
『――どうしたの？ 言いにくいこと？』
それでも……。
それでも、あの光景がまぶたの裏から離れなかったから。
自分の本当の気持に気づいてしまったから。
『――私と……結婚しない？』
『――えっ！？』
驚きの声を上げ、フリーズするユーノに対して、私は顔を真っ赤にしていた。
それもそうだろうと思う。
そこに至るまでの経緯を何段階もすっ飛ばした告白なのだから。
――まだ、恋人でもないはずなのに。
無言が夕暮れを支配する。
言ってから後悔した。
物事には順序というものがあって、この告白は順序を全く無視したものだったから。
『や、やっぱ、聞かなかったことにして……うん、やっぱり可笑しいよね……恋人でもないのに……』
『――喜んで……っていうか、なのはに言わせちゃったね』
そう言ってユーノはなのはに向かって微笑んだ。
私は何を言われたのか分からず、ポカンと目を見開いてしまった。
『ほんとは僕から言うべきだった……結婚しよう、なのは』
『――！？』
驚きで何も言えなかった。
だって私は、恋人でもないのに、順序を無視した告白だったのに。
ユーノ君は受け入れてくれたのだ。
そんな私を見て、ユーノ君は笑っていた。
『――わ、笑うなんてひどい！ 私は、本当にうれし……かったのに……』
なのはの瞳にはいつの間にか涙がこぼれていた。
本当にうれしくて。
本当に幸せで。
『泣かないで、なのは。“結婚しよう”と言ったのは君じゃないか』
『だ、だって……どうして……』
『――今日、３人で過ごしていて想ったんだ……こんな時間がずっと続けばいいって……
まぁ、いきなり結婚を申し込まれるなんて予想もしてなかったけどね』
アハハとユーノ君は笑っていた。
私が感じたことを、ユーノ君も同じように感じていたのだ。
私はそれが嬉しくて、ユーノ君にギューと抱きついた。
『――ありがとう……本当にありがとう、私は幸せ者だよ』
『僕の方こそ幸せ者だよ……なのはこそ僕なんかと結婚して後悔しない？』
ユーノ君が私の耳元で優しく囁く。
そんな答えは決まりきっている。
――後悔なんてするはずがない。
『――もうっ、なんでそんなこと言うの？ そんなの決まってるじゃない……』
私たちはじっと見つめあう。
お互いのその瞳の色は夕暮れに染められた紅色。
私はきっとその色をずっと忘れない。
「――ママ、なのはママ〜？」
なのははハッとなってヴィヴィオの方を見る。
そこには不思議そうな顔をして覗き込んでいるヴィヴィオの姿。
「ボーとしてどうしたの？」
「うん、ちょっと大切なことを思い出してたの……」
「ふーん、ねぇなのはママ、呼んでもユーノパパ起きないよぉ！」
「――もう、しょうがないなぁ、ユーノ君は。ヴィヴィオ、一緒に起こそうか？」
「うん！」
コンロの火を止めて、なのはとヴィヴィオはユーノの隣まで移動する。
ユーノはまだ、気持ち良さそうに夢の中だ。
なのはとヴィヴィオの二人は顔を見合わせて、でタイミングを計り大声で呼んだ。
「ユーノ君〜！」
「ユーノパパ〜！」
――それはある家族の朝の風景。
――いつまでも続くであろうこの景色を見ながら。
――私たちは三人で歩いて行く。
あとがき
ユーノ×なのは同盟一周年記念SSです。
お題がユーなので●●一周年だったので、ユーなので家族になってから一周年という感じで書いてみました。
nao的には、キスとかしてないから、甘くはないと思うんですけどどうでしょうか（笑）？
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