――ピンポーーン――
チャイムを鳴らしても返事は無し。
なのははもう一度チャイムを鳴らしてみる。
――ピンポーーン――
やっぱり部屋の主からの返事は無い。
だから、なのはは扉に向かって、部屋の主の名を叫んでみる。
「――ユーノくーん？」
叫んでみても、扉が開く気配はないし、部屋の主が出てくる気配も無い。
「――はぁ、寝ちゃってるのかなぁ……」
なのはは、小さくそんなことを呟いて、手をポケットに入れる。
取り出すものは、この部屋の鍵。つまり、ユーノ君の部屋の合鍵。
恋人である、なのはだからこそ、持っているものだ。
そんな事実に、なのははちょこっとだけ幸せを感じてしまう。
「ユーノ君、入るよ〜」
相手は寝ているかもしれないので、なのはは小さい声をかけて、部屋の中に入って行く。
「――ふふっ、やっぱり寝てる」
なのはの予想どおり、ユーノはベッドですやすやと眠っている。
ユーノの傍らには、開けかけの本が広がっている。
たぶん、本を読みながら眠ってしまったのだろうとあたりをつける。
「ユーノ君は、本当に本が好きだねー」
なのははユーノの顔を覗き込み、その顔を人差し指でつつく。
ぷにっとした頬の感触をなのはは楽しむ。
「――せっかく、来てあげたのに」
連絡を入れないで、いきなり来たのが悪い。そんなことは分かっている。
そんなことは分かっているのだけれど、恨みがましくユーノの顔を見つめてしまう。
「もうっ……しょうがないなぁ」
ユーノの寝顔を見ていたら、そんな気持ちもなくなってしまった。
そんな寝顔が見ることが出来るだけで、なのはは幸せなのだ。
「――あっ、布団がずれてる」
なのははずれていた布団をなおそうとして、布団を持ち上げる。
「――あっ……っ……」
なのはが見つけてしまったものは、
彼の白いワイシャツに付いた真っ赤な、
「――なん…でっ……」
キスマークだった。
声も出せずに、なのはは後ろにへたり込む。
なんで、どうして……ということばかり、頭の中に駆け巡る。
もう一度彼の首もとのワイシャツを見つめる。
そこには、自分が付けた覚えの無い、キスマーク。
「――ユーノ君……」
なのはの頭の中に浮かんできたものは『浮気』という単語。
ユーノの事を一度も疑ったことなんて無かった。
それでもなのはは、誰のものかわからないキスマークに大いに混乱した。
「――ユーノ君っ！」
いてもたっても居られなくなって、なのははユーノの首元をつかんで、激しく揺らした。
一刻も早く、ユーノの口からキスマークのことを聞きたかった。
「……んっ……って、なのは！？」
ユーノは目を覚ますと、まず、なのはがそこにいることに驚いた。
もっとユーノが驚いたことは、そのなのはの表情だった。
なのはの顔は、ぐしゃぐしゃで、この世の終わりのような表情だった。
そんななのはが、ユーノに激しく詰め寄る。
「ねぇ……どうしてっ、どうしてなの！」
「な、なのは……何をいってるの……！？」
突然にそんなことを言われたので、ユーノには何が起こっているのかまったく理解できなかった。
なのははそんなことに構わず、ユーノにすがりつき、その胸を叩き、叫ぶ。
「私じゃ駄目なのっ……私が恋人なのは嫌っ！？」
まだ何か叫ぼうとしたなのはの口を、ユーノはキスをすることで塞ぐ。
それでもまだ、もがもがするなのはを落ち着けるために、そのなのはの細い身体をギュッと抱きしめる。
なのはが何を言っているのか、ユーノには分からなかったが、そうせずにはいられなかった。
目の前で泣き叫ぶなのはを見て、ただ抱きしめるしかなかった。
抱きしめたまま数分が過ぎると、なのはの様子もだいぶ落ち着いた。
ユーノはそれを確認してから、腕の中の彼女に優しく問いかける。
「――その、なのは……いったいどうしたの？」
「――ええと……」
なのはが上目遣いで、何かを決心したかのように、ユーノに尋ねる。
「――ねぇ、ユーノ君……」
「――なに？」
なのはが聞くことは、もちろんキスマークのこと。
こんなにも抱きしめられているのに、その印を見てしまうだけで、心の奥底から不安が押し寄せてくる。
なのはは、決死の思いで、その真っ赤なキスマークを指差した。
「……これ、どういうことなの……私のこと……嫌いになっちゃったの？」
「……ええっ！」
なのはのその一言を聞いて、ユーノは驚きの声を上げた。
ユーノにとって、なのはは本当に大切な人で、本当に好きな人なのだから。
「そんなことあるわけないよ、僕がなのはを嫌いになるわけ無いじゃないか！」
「……じゃあ、なんで、そんなところに、キスマークがっ……」
まだ、抗議を続けるなのはの頭をなでながら、ユーノは自分に付けられたキスマークを見つめる。
そして、その印を自分につけた相手を思い浮かべ、慌てて答える。
「――ああっ、あれはね……ヴィヴィオが付けたんだ」
「――え？」
なのはの顔が信じられないことを聞いたような顔に変化する。
そんななのはを見ながらも、ユーノはなのはの頭をなで続ける。
「ヴィヴィオが昨日遊びに来てね、そのときにいたずらされたんだよ」
「……え、えっ……えええっ〜〜」
驚いて叫ぶなのはを、ユーノはさらにギュッと抱きしめる。
「なんだか、テレビに影響されたみたいで、『ユーノパパ〜』って言って付けたんだよ」
「……えっ、ほんとうなの！？」
「あったりまえじゃないか……そんなことで嘘をつくわけないじゃないか――」
そう、全部なのはの勘違いだったのだ。
ユーノは浮気なんてしていないし、なのはのことを嫌いになったわけでもなかったのだ。
「――よかった……」
隣にいるユーノにも聞き取れないような大きさ声で、なのはは呟く。
本当に安堵した声で、そう呟く。
「なのは……誤解は解けたかな？」
「……うん」
なのはの安心した様子を見て、ユーノもホッと息をつく。
この程度の誤解で、切れてしまうような脆い絆ではないけれど、やはり心臓には悪い。
「――ユーノ君、ひとつだけお願い」
「……なに、なの――」
ユーノが言い終える前に、なのはがユーノの首筋に思いっきり口付けをする。
吸い付くように、ついばむように、激しくキスをする。
そして、なのはは顔を真っ赤にさせて、ユーノに宣言する。
「ユーノ君にキスマークを付けていいのは、わたしだけだからねっ」
――そのしるしは、きっと絆の証。
ＥＮＤ
あとがき
今さらながらに８００００ヒットのとっぽさんからのリクエストＳＳです。
『ユーノの浮気疑惑！？みたいな感じでなのはさんが勘違いするという話』だったのですが、なんかちょっと違ったかもです……
それにしても久しぶりに書いたせいか、うまく文章が書けていないような気がします。
次の作品はもっとうまく書きたいものです……
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