――隣を見れば君がいた。
――いつも笑顔でそこにいた。
――いつの間にか“一緒”が当たり前だった。
魔法少女リリカルなのは Side Story 幸せの雪 Ver.ユーノ
「なのはママ〜、今日は何の日なの？」
「今日は、クリスマスって言うんだよ」
隣から可愛らしいヴィヴィオの声と、それに答えるなのはの声が聞こえてくる。
「簡単に言うと、神様の誕生日を祝うお祭りみたいなものかな……、ってヴィヴィオには難しいかな？」
「むぅ〜、そのくらいなら分かるよう」
なのはの補足にと思い、発した言葉はどうやらヴィヴィオのご機嫌を損ねてしまったようだった。
ヴィヴィオの少し頬を膨らませた顔が可愛らしくみえる。
もう季節は冬。周りの空気はもう冷たい。
ヴィヴィオと繋いだ手から伝わってくる温度がいっそう暖かく感じられる。
「今からどこに行くの、ユーノパパ？」
こちらを振り向きながら、にっこりとヴィヴィオが尋ねてくる。
可愛いなぁ、と思いつつ、出かける前になのはに聞いたことを答える。
「街で買い物してから食事をして、そうしたらなのはの家に行くよ。そうだよね、なのは？」
「うんっ、そうだよ、ユーノ君。 みんなヴィヴィオが来るのを楽しみにしているよ」
今日はクリスマス。
そんな日を、なのはとヴィヴィオ――愛しい人たちと過ごせることに、僕は幸せを感じている。
そんなことを想いながら、なのはとヴィヴィオと共に街中を歩いていく。
久しぶりに訪れた海鳴の街は、いつもと違って華やかな雰囲気が漂っている。
あちらこちらにイルミネーションが光り、店には赤や白の飾りが惜しげもなく飾られている。
「――わぁ……すごく綺麗だよ」
ヴィヴィオがその小さな背を大きく伸ばして、大きな木を見上げている。
僕もなのはも、ヴィヴィオの言葉につられて、その木を見上げる。
「――本当に……きれい」
「――そうだね、なのは」
青く幻想的に光るその木を見上げながら、今この瞬間に幸せを感じた。
隣にいるヴィヴィオは、本当に目をキラキラさせてその木を眺めている。
クリスマスという、なのはの世界独自の行事。
ミッドチルダではこういったイベントはほとんど無い。
だから、ヴィヴィオもいろいろと珍しくて楽しいのだろう。
「ヴィヴィオ、楽しい？」
「うんっ、なのはママとユーノパパとお出かけするだけで楽しいよ」
なのはがしゃがんでヴィヴィオをぎゅっと抱きしめている。
その姿はまるで仲の良い親子に見える。
「なのはママ〜、くすぐったいよぉ」
ヴィヴィオが目を細めてくすぐったそうに笑う。
そんな仕草が可愛かったのか、なのははもっとギュッとなのはを抱きすくめた。
非常に仲睦まじい光景なのだが、少しヴィヴィオが苦しそうな表情をしているのが気になった。
「――なのは、ヴィヴィオが困ってるよ……」
その言葉を聴いたなのはは、頬をプ〜と膨らませてこちらを向いた。
「むぅ〜、そんなことないよね、ヴィヴィオ？」
「うん、なのはママに抱きしめてもらうのすきー」
どうやら自分の言葉はお邪魔だったらしい。
なのははもう一度ヴィヴィオを抱きしめなおし、僕に言い放った。
「それに、そんなこというユーノ君は、もう抱きしめてあげないよ？」
「……それは、ちょっと困るかも」
ちょっと焦って、頬をかきながら言葉を返す。
そんな僕の顔を見て、なのはが笑う。
「ふふふっ、冗談だよ、ユーノ君」
クスクス笑い続けるなのはが、今度は僕の体を優しく抱きしめる。
なのははそのまま、胸に頬を摺り寄せて、目を閉じる。
そんな様子を、猫みたいだなぁ、と思いつつ幸せな時間に浸る。
いつの間にかそこにあって、これからも続いていく時間を噛み締める。
「……なのはママ？」
気づいたら、隣でヴィヴィオがキョトンと僕たちの様子を見ていた。
どうも恥ずかしかったのか、なのはは勢い良く僕の胸から離れていく。
そしてなのはは、困ったなぁみたいな、気恥ずかしい表情をしていた。
「なのはママもユーノパパも仲良しさんだね」
ヴィヴィオの微笑ましい言葉に、僕らは向かい合って微笑み合う。
「――それじゃあ行こうか、ヴィヴィオ」
「――うん、ユーノパパ」
ヴィヴィオの声と共に、僕らは手をつなぎあって、クリスマスの街に繰り出した。
「……ユーノパパ、これなーに？」
ヴィヴィオが店先にあった、サンタクロースの人形を指差しながら僕に聞いてくる。
サンタクロース、というかクリスマスという行事はミッドチルダには無いのだから、ヴィヴィオの疑問も当然だ。
「この人は、サンタクロースって言うんだよ」
「……サンタクロース？」
分からないといった表情をするヴィヴィオはとても可愛らしかった。
だから、ヴィヴィオに優しく教えてあげる。
「そう、サンタクロース。クリスマスの夜に良い子のもとにやって来て、プレゼントをくれるんだ」
「わぁ〜、ほんとう？」
「うん、本当だよ。ヴィヴィオは良い子にできるかな？」
「ヴィヴィオ、良い子にしてるー」
元気な声を上げて、素直によろこぶ姿は心温まるものがある。
ほんとうに、いつの間にか手に入れていた幸せ。
自分がいて、なのはがいて、ヴィヴィオがいる。
だから、想う。
―――僕は今、幸せだ、と。
「なのはママ、ぼーとしてどうしたの？」
「ううん、なんでもないよ。ちょっとだけ考え事をしていただけだから」
ヴィヴィオの言葉で、なのはのほうを見る。
そこには、笑っているけれど、心の底からは笑っていない笑顔があった。
「なのは、悩み事？」
隠そうとしたって、なのはが悩み事を持っているのは手に取るように分かった。
僕がなのはを心配するのは当たり前だし、なのはが僕を心配するのもいつものことだ。
今日はどうやら僕が心配する番のようだ。
「本当になんでもないんだよ、ユーノ君」
「本当に？」
「うん」
心配をする僕の唇に、なのはは指をそっと当てた。
これ以上僕に何も言わせないように。
「ほら、ユーノ君。今日は楽しまなきゃ損だよ」
「そうだよ、ユーノパパ」
「……そうだね」
なのはの言うことももっともだ。
今日はクリスマス。
楽しまなければ損だ。
だから僕は笑う。
そしてなのはも笑う。
ヴィヴィオも笑った。
クリスマスで賑わっている街を歩き、食事もすませて公園のベンチに腰掛ける。
少し街から離れた、小高い丘の上にあるこの公園には、僕たち以外の誰もいなかった。
ミッドチルダでは見ることができない街並みが、公園から見渡すことができた。
「――ヴィヴィオ？」
なのはの声につられて、ヴィヴィオのほうへと振り返る。
「……すぅ〜、すぅ……」
なのはに寄り添うようにして、ヴィヴィオがあどけない寝顔を見せて寝ていた。
久しぶりにはしゃいでいたから疲れたのだろう。
「――ヴィヴィオは寝ちゃったみたいだね……疲れたのかな？」
「そうだね、久しぶりのお出掛けだから、すごくはしゃいでいたからね」
ヴィヴィオを起こさない程度の弱い力で、軽く頬をなでる。
ふにふにした頬をなでていると、ポツリと冷たいものが手の甲に当たった。
「――雪だ」
なのはが一言つぶやいた。
その言葉通り、真っ白な雪がパラパラと降り始め、公園を白く染め上げていく。
幻想的な雰囲気に包まれた公園で、僕となのはは囁き合う。
「ホワイト・クリスマスだね……ユーノ君」
「そうだね、なのは」
それからはなにも言葉を交わさず、寄り添いあい雪を見続けた。
白く、淡く、輝く雪を見て、僕は……なのはは何を想うのだろうか？
「――ねぇ……ユーノ君」
「――なに？」
突然、静かになのはが声をかけてきた。
何か決意した表情、その表情に少し胸がドキリとした。
「――ユーノ君は今幸せ？」
なのはの言葉を何度も頭の中で繰り返す。
そして、何度考えても出てくる答えは同じだ。
だから、不安そうな顔をしているなのはをまっすぐに見つめて答える。
「そんなこと当たり前じゃないか……」
「当たり前か……」
そう、当たり前。
隣になのはがいる。それだけで、僕は幸せを感じていられる。
今、この瞬間こそが、かけがえの無いものと想える。
「なのはと一緒にいられる、ヴィヴィオも一緒にいる……僕は幸せだよ」
“一緒”だということが何よりも大切なこと。
隣にいてくれるだけで、傍にいてくれるだけで、心が安らぐ。
「ユーノ君、ちょっと顔をこっちに……」
「――ん……？」
戸惑いつつも僕はなのはに顔を寄せていく。
なのはの柔らかい手が僕の頬を優しく包み込む。
「――んっ」
「――んっぁ」
なのはからの不意打ちのキス。
甘く、雪も解けるような熱いキス。
なのはの不安を取り除くように、もう不安が無いように、唇をつなぎあっていた。
互いの幸せを離さないように、長い時間そうしていた。
――それは、大切な、大切なクリスマス。
隣を見れば君がいた。
いつも笑顔でそこにいた。
いつの間にか“一緒”が当たり前だった。
だから、君に誓おう。
ずっと、一緒にいると。
END
あとがき
幸せの雪Verユーノです。VerなのははリリなのX’masに投稿しました〜。
ユーノにとって、いつの間にか“当たり前”になっていた幸せを想う話です。……いつもより糖分は少なめ？
ちなみに、絵の描き方がいつもとちょっと違います。――絵の内容的には一番甘いｗｗ？
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