「――月が綺麗だね……レイジングハート…」
髪をなびかせ、夜空を見上げる私、高町なのはは呟いた。
語りかける相手は私のパートナー、不屈の心の名を持つレイジングハート。
「Yes, my master」
空高くに上った、淡く光る月をなんとなく見つめる。
夜風がそっと頬をなでた。
ミッドの空に浮かぶこの月も、海鳴の街で見た月と変わらないと思う。
ただそこに在りて、優しく世界を照らす月。
いくら手を伸ばしても、届くことのないモノ。
「……なんでだろう、近くにいるはずなのに遠いね……」
彼とは、どのくらい逢っていないのだろう？ 1ヶ月は顔も見ていないだろうか。
逢えなくなる――そんなことは最初から分かっていた。
お互いの仕事は忙しいと知っていたし、その仕事の大切さも充分に理解している。
彼には無限書庫の仕事が、私には機動六課での仕事がある。
――だけど、寂しいと思うのは、私の我侭だろうか？
彼と一緒に空を飛びたくて、傍に居たくて、ここまでやってきた。
近くにいるはずなのに、遠くに感じてしまう。
別に今の仕事や生活に不満があるわけじゃない。
それなのに、頭の中に浮かぶのは彼のことだけだ。
彼に逢いたいと、彼と一緒にいたいと願ってしまう。
「……本当に月が綺麗だよ……」
彼との絆、レイジングハートを握りしめる。
彼が10年前にくれた絆、今まで私を支えてくれた絆だ。
たとえ逢えない時間が長くても、彼との絆は繋がっている。そう、確信している。
彼を好きだと最初に気付いたのはいつ頃だっただろうか？
いつの間にか、彼の存在がとても大きなものになっていた。
「逢いたいな……ユーノ君……」
彼は例えるならまるで月。――空高く上る月だ。
いつも傍にあって、暖かい光で私を包んでくれる。
だけど、いくら手を伸ばしても届かない存在。
彼もそれに似ている。彼を掴みたくて、どんなに手を伸ばしても届かない。
――そんなふうに考えてしまう。
「……あれ？ なんでだろう……涙が止まらないや……」
いつの間にか涙が溢れていたことに、なのはは気がついた。
これほどまでに彼を求めていたのか、と自分自身に驚いた。同時に、こんな姿はほかの人には見せられないな、と苦笑した。
「…………全部、ユーノ君がいけないんだ、私をこんな気持ちにさせる、ユーノ君が……」
夜空の月に向かって、なのはは囁いた。
「――なのは、僕を呼んだ？」
「――えっ！……」
月の光の中から名前を呼ばれた。
目を凝らして見ると、光の中に彼がいた。
「なのは、泣いているの？」
「……ユ、ユーノ……君？」
なぜ彼が目の前にいるのか、私の名前を呼ぶのか、さっぱり解らなかった。
ただひとつ分かることは、目の前に彼がいるということだけ。
「こっちにおいでよ、夜空は気持ちいいよ――」
彼は夜空の中を気持ち良さそうに浮かんでいた。
「――それに、手が届かないなら飛べばいいんだよ。そのための羽がなのはにはあるんだから」
「――ユーノ君っ！」
私は飛んだ、彼に向かって。
そう、届かなければ、飛べばいい。
「……ごめん、なのは。ぜんぜん逢えなくて……」
彼に優しく抱きしめられ、胸の中で泣いた。
だけど、これはさっき流した涙とは、きっと違う涙。
「……ユーノ君……ユーノ君っ…………！」
彼を強く抱きしめる。離れないように、離さないように。
二人は、抱き合い夜空の中をフワフワと漂う。
「大丈夫だよ……僕はずっとなのはと一緒にいる。今は離ればなれだけど――いつかきっと、ずっと一緒に居られる時がくるよ」
「…………うん……うん、うん！」
――たぶん私達がずっと一緒に居れるようになるのは、当分先の未来だ。
――また逢いたくなって、泣いてしまう時があるかもしれない。
――だけど信じよう。いつかきっと訪れる、幸せな未来を。
END